【開業医の父、娘の中学受験に伴走する】親の声かけで結果は変わるのか。診察室から持ち込んだ「魔法の言葉」【part5】
「診療では患者さんの人生に向き合っている。では、我が子の人生に向き合う時、私は何ができるのか。」
実質1年という短期間で挑んだ中学受験。限られた時間の中で最大の効率を出すため、私は娘の学習進度を分析し、難易度を調整し、伴走を続けていました。しかし、そこには常に「焦り」という魔物が潜んでいました。今回は、私が親として犯してしまった「声かけの失敗」と、そこから学んだことについてお話しします。

言ってはいけなかった「中学受験なんて辞めてしまえ」
私は基本的に、テストの点数が悪かったり、問題が解けなかったりしたことで娘を怒ることはありませんでした。能力や結果に対して怒っても、できるようになるわけではないとわかっていたからです。
しかし、どうしてもイラッとしてしまう瞬間がありました。それは「やる気を見せない態度」です。
特に夏休み前、娘は国語を苦手としていました。なんとか点数を取れるようにしてやりたいと、私なりに分析してプリントを準備し、いざ一緒にやり始めた時のこと。娘がうつらうつらと居眠りをし始めたのです。親の必死さと裏腹なその態度に、私は思わず声を荒らげてしまいました。

「そんな態度なら、中学受験なんて辞めてしまえ!」
一番言ってはいけない言葉だと頭ではわかっていても、口をついて出てしまいました。夏以降は絶対にネガティブなことは言わないと心に決めていたのに、一度だけ同じような状況で同じ言葉をぶつけてしまったこともあります。
距離を置き、チームで乗り切る
そんな言葉を投げつけてしまった時、私はこれ以上感情的にならないよう、スッとその場を離れて娘と距離を置きました。そんな私の代わりに、すかさず妻が間に入り、勉強を見てくれていました。ここが「家族のプロジェクト」として取り組んでいたことの最大の救いでした。

少し時間が経ち、私の頭が冷えて戻ってみると、そこには次に何をやっていいのかわからず、途方に暮れながらも机に向かっている娘の姿がありました。私が「辞めてしまえ」と何度突き放しても、娘の方から「辞めたい」と言ってきたことは一度もありませんでした。我が子ながら、大した根性だと思います。
「……受験、やるんだな?」
私がそう確認すると、娘は頷き、私たちは再び一緒に走り始める。そんな衝突と再起動を、幾度か繰り返しました。

診察室でも使う「大丈夫、大丈夫」という言葉
この失敗を通して、私はあることを強く意識するようになりました。それは、娘がどんな状況であっても「大丈夫、大丈夫」と声をかけることです。

点数が悪かった時、問題が全く解けない時、焦っている時。私はひたすら「大丈夫だよ」と声をかけ続けました。
実はこの「大丈夫」、私が外来診療でも患者さんによく使う言葉です。医学的な根拠を離れて「何が大丈夫なのかよくわからない」時であっても、あえて言葉に出して伝えるようにしています。
なぜなら、人間は不安や危機感を煽られたからといって、急にできることが増えるわけではないからです。焦らせても、パフォーマンスは絶対に上がりません。

最大効率を生むのは「安心できる環境」
医療の現場でも、受験勉強でも、最大の効率を生み出す条件は同じです。それは、本人が「いい状態(心身ともに落ち着いた状態)」で目の前の課題に向き合えること。そしてそのためには、ベースに「安心できる環境」があることが第一なのです。

「ここを間違えても怒られない」「できなくても大丈夫だと言ってもらえる」。
その安心感があって初めて、子どもは自分の持っている力を100%発揮することができます。
親の焦りや不安は、言葉の端々から子どもに伝染します。だからこそ、親はグッと飲み込んで「大丈夫」と笑う。それは、医学的にも理にかなった、最強の「環境づくり」だったのだと確信しています。




