【開業医の父、娘の中学受験に伴走する】中学受験の偏差値は「体重計」、志望校対策は「体組成計」である【番外編】
「模試の偏差値が足りないから、もう志望校を変えるしかないのだろうか……」

受験期、多くの親御さんがこの「偏差値」や「合格可能性●●%」という数字を見て、不安な日々を過ごされているかと思います。
我が家も模試での評価は大きくこの二つなので、気にならないといえば嘘になる感じでした。しかし、1年の間、中学受験を伴走して思ったことがあります。
それは、「偏差値が足りているから絶対大丈夫」ということもなければ、「足りないから100%届かない」ということもない、ということです。

なぜなら、中学校側は、受験生に「高い偏差値」を求めているわけではないからです。彼らが求めているのは、あくまで「うちの学校が出題する問題を解ける力」です。入試当日に採点されるのは、模試の成績表ではなく、目の前の答案用紙だけだからです。
この仕組みを分かりやすく紐解くために、今回は「体重」と「体組成」の例えを用いて、その真実を解説していきます。
偏差値は「体重計の数値」、志望校対策は「体組成計」

模試の偏差値は、例えるなら「体重計の数値」のようなものです。全体的なボリューム(基礎学力の総量)をパッと測るにはとても便利で、現在地の把握には欠かせません。ですから、模試を受けること自体に意味がないわけではありません。
ただし、正確に言うと、偏差値は体重のような「いつでも、どこで測っても同じ絶対値」ではありません。「どの模試(集団)を受けるか」によって数値が10も20も変わってしまう、きわめて相対的な数字です。
さらに、体重計の数値だけでは、その中身が「筋肉」なのか「骨の太さ」なのか、それとも「水分」なのかまでは分かりません。
一方で、実際の中学受験の入試問題は、学校ごとに求める「学力の体組成」が全く異なります。筋肉質な体を求める学校もあれば、強靭な骨格を求める学校もある。そしてそれだけでなく、「各科目のどの単元を深く出してくるか」という出題分野のバランス(配分)も、学校ごとに驚くほど違います。
だからこそ、私たちは一歩踏み込んで、我が子と志望校の「学力体組成」を見る必要があるのです。
首都圏の主要な女子受験・共学受験における入試傾向をこの「体組成」に分解すると、主に以下の4つの要素に分けることができます。
(※ここからの学校の分類は、近年の入試問題の全体的な傾向から見た筆者の私見(一つの見方)です。同じ学校でも教科によって傾向は異なりますし、感じ方には個人差があります。あくまで『体組成のイメージ』を掴むための参考としていただき、実際の細かな相性はお手元の過去問を見て各ご家庭でご判断ください)

① 【筋肉】= 論理的思考力・圧倒的な記述量
じっくり1問に時間をかけ、自分の言葉で長いロジックを組み立てて書かせる学校です。

- 学校的イメージ例:桜蔭、雙葉、鷗友学園、公立中高一貫校(都立小石川など)
- 特徴・単元の傾向:桜蔭の国語における100文字超の記述や、鷗友学園のほぼ全問記述の国語など、部分点をかき集める「書く体力・思考の深さ」が合否を分けます。また、算数では立体図形の深い理解など、高度な思考力を求める特定の単元が頻出します。
② 【骨格】= スピード・処理速度・正確性
短い試験時間に対して問題数が非常に多く、迷わずサクサク正確に解く力が求められる学校です。

- 学校のイメージ例:女子学院、豊島岡女子、浦和明の星、吉祥女子、共立女子
- 特徴・単元の傾向:例えば女子学院は、各教科40分という短い時間のなかに大量の問題が詰まっており、トップクラスの「速読即解」とノーミスの正確性が要求されます。豊島岡も算数などで高度な処理能力をハイスピードで発揮する必要があります。単元としては、複雑な計算や一行問題、定番の典型題が広範囲からスピーディーに出題される傾向があります。
③ 【水分】= 初見問題への適応力(柔軟性)
塾のテキストで見たことのないような、その場で与えられた特殊なルールを瞬時に読み解いて解かせる学校です。

- 学校のイメージ例:渋谷幕張、洗足学園、慶應湘南藤沢(SFC)、頌栄女子
- 特徴・単元の傾向:渋幕を筆頭に、算数や理科で「その場でルールが定義されるパズル的・実験的な問題」が多く出題されます。事前のパターン詰め込み学習だけでは対応しづらい、頭の柔軟性が試されます。理科の「実験考察」や、社会の「時事・資料読解」など、単元を超えた対応力が必要です。
④ 【エネルギー源】= 知識の正確なストック(基礎・定番)
テキストにある標準的な問題を、どれだけ丁寧に取りこぼさず得点できるかが勝負になる学校です。

- 学校のイメージ例:大妻、香蘭女学校、品川女子学院、三輪田学園 などの伝統校・中堅校
- 特徴・単元の傾向:入試問題が極めてオーソドックスで、塾のテキストの「典型題」がしっかり解ければ高得点が狙える構成です。理科・社会の基本知識の確実さや、算数の特殊算の基礎など、穴のない網羅的な知識が試されます。ひねった問題が少ない分、ミスが許されない高得点勝負になります。
大前提:すべては「エネルギー(基礎力)」があってこそ

ここで誤解してほしくないのは、「④のエネルギー源(基礎知識・定番の解法)は、どの学校を受けるにしてもある程度は、絶対に不可欠である」ということです。
どんなに素晴らしい「筋肉(思考力)」や「柔軟性(ひらめき)」を持っていたとしても、それを動かすエネルギー、つまり基礎となる知識や基本の計算力・語彙力がスカスカであれば、入試問題という重い扉を動かすことは絶対にできません。
その意味で、塾の「一斉模試」には非常に大きな価値があります。模試は、この「エネルギー源(基礎の総量)」がどこまで蓄えられているかを教えてくれる大切な指標だからです。模試の成績は、決して軽視していいものではありません。
しかし、例えば「桜蔭」と「女子学院」は、模試の持ち偏差値としては同じ最高峰レベルに位置しますが、求める学力の体組成も、頻出する単元の深さも真逆と言っていいほど異なります。

つまり、模試の数値で「十分なエネルギー(基礎の総量)」が確認できたその先は、集団によって上下する不確かな「偏差値」をさらに追うことよりも、志望校が求める「特定の体組成や単元の偏り」に合わせて、体を絞り込んでいくトレーニングが重要になってくるのです。
これが、「模試の判定はEなのに、過去問は驚くほど解ける」という現象が起きる理由であり、「偏差値の奥を見る」ということの本質です。
【実話】模試はE判定。でも「過去問の体組成」は五分五分だった

ここで、我が家の娘の話をさせてください。
当時の娘の模試の偏差値は志望校に届いておらず、合格判定は軒なみ「E判定」でした。数字だけを見れば、誰もが受験を躊躇するような状況です。
しかし、娘にはコツコツと積み上げてきた確かな「エネルギー源(基礎力)」がすでにありました。ただ、全体の処理スピード(骨格)がその模試の求める基準に追いついていなかったため、偏差値としては低く出てしまっていたのです。合不合の2回目の算数が良い例で、計算問題や1行問題は正解していて、大問の(1)は少し解ける状態でした。

そこで私たちは、受ける模試によって上下する偏差値の数字に振り回されるのをやめました。その代わりに、志望校が求めている「特定の筋肉(思考力・記述力)」や、「その学校が好む頻出単元」の強化に、限られた時間を全集中させたのです。
数年分の過去問をじっくりと解き進め、その推移と中身を徹底的に客観分析しました。すると、一般的な模試の数値には表れなかった「学校の要求と、娘の持つ強みのマッチング度」が見えてきました。全体の体重は足りなくても、その学校に必要な「筋肉」はしっかりとつき始めていたのです。
受験前の塾の先生との個別面談の席で、私は分析した過去問のデータをお見せしながら、こう告げました。
「先生、模試の判定はこうですが、過去問の成績の推移を見る限り、私は合格の可能性は五分五分だと思っています」
先生も数年分の過去問の成績と、娘の書いた答案の中身、そして単元ごとの得点状況を確認し、「確かにその通りですね」と深く同意してくださいました。
奇策に走ったわけではありません。基礎という土台があった上で、徹底的に「志望校との相性」をデータで検証した結果の、納得の着地でした。こうして第一志望を確定し、迷いなく突き進んだ結果、娘は見事に(繰り上げではありましたが)合格を掴み取ることができたのです。

志望校が決まっているなら、時間の使い方を変えよう
もし、お子様の行きたい志望校が明確に決まっているのであれば、ある程度の基礎力が固まった段階で、時間の使い方をシフトしていく必要があります。
母集団によって変わる「一斉模試の偏差値」をあと数ポイント上げるために全力を注ぐのは、時に遠回りになることがあるからです。学校側は、一斉模試の順位表を見て合否を決めるわけではありません。
過去問という名の「学校からのメッセージ」を読み解き、その学校が求める「能力の形」と「頻出する単元」をピンポイントで鍛え上げる方が、限られた時間の中で合格率を最大化することができます。
数字の表面だけに囚われて、お子様の奥にある「輝く強み」を見落とさないでほしいと思います。基礎をしっかりと固めた受験生には、すでに素晴らしい固有の「体組成(持ち味)」が備わっています。
それを最も活かせるステージを、過去問というデータを通して、一緒に見つけていきましょう。


